大人の恋はナチュラルがいい。

 仕事でもプライベートでもパンツルックが主流の私が今日はレモンイエローのフレアスカートなど履いているのには理由がある。女らしさを意識してエストロゲンの分泌量を増やすためだ。なお、好きな男性の目に晒されることで更に意識が高まり効果が上がるとかなんとか。

 たかがフレアスカートだけど私が履くにはフェミニンすぎやしないかと心配だったけれど、目尻の下がってる太一くんを見るに自分が思ってるほど可笑しくはないらしい。むしろ、こんなに喜んでくれるならもっと積極的に履くべきだったとさえ思ってしまった。

「いつものパンツスタイルもヒヨコさんらしくていいけど、スカートだと凄く“女の子”って感じがする」

「はは、褒めてくれるのは嬉しいけど“女の子”って。そんな可愛らしい歳じゃないよ」

「女の子だよ。ヒヨコさんは俺にとって」

 電車に乗り込むまでの会話中に落とされる、ハートを射抜く甘い発言。自分でも気付かないうちにどこか自虐的に染み付いていた『もう若くない』という意識を、太一くんはナチュラルにクリアに取り払ってくれる。甘いときめきまで添えて。

「ありがと……」

 きっと赤くなっているだろう熱を持った頬を隠そうと顔を俯かせれば、太一くんの手が私の頭を撫でる様に髪を梳く。歩きながらだったのでそれは1度きりだったけど、一瞬感じられた大きな手の感触に私は自分のエストロゲンが着実に分泌されているような気がしていた。

***

「あれ?」

 本日聞く2度めの『あれ?』は、先ほどとは違い落胆の響きだった。今日のディナーは帰りすがら気紛れに店を探すのではなく、予めふたりで行くお店を決めてあった。それが、いざ店の前まで行くと『臨時休業』の札が掛かっていたのだから、ガッカリ風な『あれ?』も出ようと言うものだ。
 
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