大人の恋はナチュラルがいい。
「臨時休業か、何かあったのかな」
飲食店と言う同業である以上、私の思考はどうしても営業者の目線で考えてしまう。こんな時期に臨時休業だなんて、まさか食中毒関係で営業停止中とか?おおこわ。けれど、隣を見れば私とは全く違う思考で頭を悩ませているだろう、眉尻を下げる太一くんの姿が。
「残念、ヒヨコさんと一緒にタイ料理が食べたかったのにな。仕方ない、どっか他に行こうか?」
つい先日、電話で私たちはタイ料理について盛り上がったばかりであった。こんな気候の時はちょっと辛いものやサッパリしたものが美味しいよね、唐辛子とかレモングラスとか、なんかタイ料理食べたいね、ってな流れで今日のディナーの予定に辿りついたのでまさかの臨時休業は逸っていた太一くんの胸にわりと大きく落胆の色を落としたのであろう。
別に今から他のタイ料理店を探したっていいのだけど、このように出鼻をくじかれた時の店探しと云うのは大抵上手くいかない事が多い。混んでいて入れなかったり思っていた雰囲気と違ったり。だったらジャンルに拘らず良さそうなお店に入ればいいのだけど――
「じゃあさ、うち来ない?ここから近いし。本格的とまではいかないけどガパオとかトムヤムクンとかソムタムくらいで良ければ私作るから」
ハンパなお店で妥協するくらいなら作ってしまえと云うのが私の信条だ。仕事がら常に新メニューの開発を考えている私の家には大抵の調味料は揃ってるし冷凍や乾物などの食材のストックも多い。少しの生鮮さえ買い足せば、それなりのクオリティの料理が出せる自信はある。
と、まあ、そんな勢いで口走ってしまったけど、考えてみたら太一くんは雰囲気のあるお店で食事がしたいのであって、私のこぜまいマンションでご飯を食べるのはもしかしたら見当違いだったかも知れないと一瞬後悔しかけた。けれど、隣を見上げれば彼はまるで夢を見る少年のようにキラキラとした瞳をして感激を露にしてるではないか。