大人の恋はナチュラルがいい。
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「みんな肉が好きだねぇ。もっと魚も食べようよ」
PM8時半。閉店した店内のテーブルで、私は今日の売り上げを計算しながら独り言を垂れ流していた。独り暮らしが長いと独り言が増えると云う説は本当だ。独り暮らし10年目に突入した私は今やテレビと会話する事だって日常茶飯事の域に達している。
そんな事はどうでもいい。問題はいつも肉メニューのランチボックスがすぐさま完売してしまうのに対して、魚メニューは出足が鈍いと云う事だ。生臭くならないようにカレー味に仕上げたりスパイスを効かせたりしてるんだけどな。日本人よ、もっと魚を食え。
「そう言えば、あのお客さんもいっつも肉メニュー買ってくな」
ボールペンを指で挟んだまま頬杖をつき、指先でブラブラとペンを弄びながら呟く。我ながら器用な体勢だ。そんな姿勢で思い浮かべたのは例の若い男性客のこと。今日もハーブチキンが美味しかったと述べ、そしてポークチョップのランチボックスを買っていった。
そんな彼の姿を思い浮かべたとき、同時に私の脳裏には理緒ちゃんの言葉が過る。
――あのお客さん、店長に気があるんですよ――
気がある……。気がある?そもそも気があるってなんぞや。彼が私に惚れてるなんて、理緒ちゃんはちょっと恋愛脳を拗らせ過ぎではないのか。今更ながら私は理緒ちゃんの言葉に冷静にツッコミ返した。だって、もし私が男だったら絶対に自分みたいな女には惚れないと断言できよう。