大人の恋はナチュラルがいい。
4・咲き誇れ大人の恋
【4・咲き誇れ大人の恋】
「今太一くんが飲んでるのがグァテマラの浅煎り。酸味が強いでしょ」
「うん、あんまし苦くない」
「でもそっちの方がカフェインの含有量はずっと多いんだよ」
私の説明を聞きながら太一くんはカップの中の琥珀をゆらゆら揺らし、味わうようにゆっくりと口に運んだ。グァテマラの芳醇な香りがふんわりとこちらの鼻腔にまで届く。
「濃くて苦い方がカフェインが強いと思って今まで飲んでたけど逆だったんだ」
「いつもエスプレッソ飲んでたもんね。あれも短時間で抽出させるから普通のドリップよりカフェインは少ないの」
オフィス街も午後の業務の折り返しを迎えるPM4時。ポツポツと店内にいるお客さんも、ワイシャツ姿のサラリーマンに首から社員証をぶらさげたOLらしき人と、働く大人の憩いの時間を窺わせる。そしてそれは私の前のカウンター席に座る彼も同じ。
官公署に書類を提出しに行った帰り、時間に余裕があるからと珍しく寄り道をしてくれた太一くん。朝からの小雨で肌寒かったのかホットコーヒーを注文した彼に少しだけバリスタらしい話題を提供してみた。
シトシト雨に燻るオフィスビルの森。その隅っこの小さなカフェでホッと一息馥郁な香りを楽しむのは、なかなか贅沢な時間だと思う。そんな心休まる時間を提供できるのがこの仕事の誇らしいところだ。
「さすがヒヨコさん、プロだなあ」
私の話に感心を籠めた相槌を打ち、コーヒーカップを傾ける太一くんもどこか肩の力が抜けてるように見えて、こんな時は特にカフェを営業して良かったとシンプルな幸せに浸れる。