大人の恋はナチュラルがいい。

 ぐうの音も返せなくなってしまった私に、理緒ちゃんは手元も見ずジンジャークッキーの袋をとじながら一歩ズイッと詰め寄る。

「もしかして店長、一生独身通すつもりですか?せっかくラストチャンスでいい彼氏が出来たのに?」

「ラストチャンスって、理緒ちゃんひどい。まるで私の女としての人生が終盤であるかのような」

「結婚を考えるまともな女性ならラストチャンスです。順調に付き合ったとして、これから婚約、結納、結婚準備、挙式と考えたら子作り始めるのは32ってとこですよ。運よくすぐ妊娠できればいいけど、モタモタしてたらあっと言う間に35歳、高齢初産じゃないですか。店長はお店のことだって考えなくちゃいけないんだし、余裕持って計画しなくっちゃ」

「ひえぇぇ……」

 実家の母にだってここまで具体的に指摘されたことの無い説教を、年下の従業員にされてしまった。またもやグリグリと痛い所を抉ってくる獰猛な理緒ちゃんに、世の女子というのは皆こんなに計画的に恋愛を進めてるのかと感心してしまう。なんだか違う世界の生態系の話を聞いてるみたいだ。

「そもそも坂巻くんはどうなんですか?30手前の店長と真面目に付き合うんだからそのつもりだと思うんですけど」

「わ、分かんない……」

「うわっ、ヒドイ返答。子供じゃないんですから、しっかりしましょうよ」

「はい……」

 何処か優しげに聞こえてた外の雨音が、今はザワザワと不安をかきたてる音に聞こえる。今まで呑気に『あー幸せー』なんて太一くんとの日々を過ごしていた自分が途端に稚拙に思えてきて頭が痛い。目を逸らしていたどころか、全く見えてなかった近い将来の問題に気付かされ、それに向き合わなくてはいけない事を考えると頭はますます痛くなるのだった。
 
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