大人の恋はナチュラルがいい。

 仕事のこと以外にかまけてる時間が惜しくて、手間が掛からないと云う理由で続けている色気の無いショートカット。そろそろ加齢に本腰を入れて立ち向かわなければいけない年なのに、最低限のケアしかしてないフェイス&ボディ。見苦しいすっぴんを隠す程度に施された化粧。接客業なので清潔感には気を配っているけど、仕事中はカッターシャツに黒のパンツスタイルとエプロンが常備で、可愛げとは程遠いと思う。

 改めて考えると実にヤバい。そろそろ生物学的にメスであるかも怪しくなってくるレベルだ。こんな、染色体上ギリギリ女を保っている私に惚れるなんて、物好きにも程がある。

 ましてや、あのお客さんはどう見ても年下だ。私の勘だと25歳だ。ジワジワと20代最後の歳を侵食してる私より4つは若いと思われる。もうそれだけでありえない。

 加齢一直線のメスかもしれない性別不明な私に、あのお客さんが惚れてるなんて。ありえなさすぎて笑いが込み上げてくる。

「あっはっは。理緒ちゃんもけったいなこと言うよね。『賭けてもいい』なんて自信満々に言っちゃってさ。よーし、万が一理緒ちゃんの予想が当たったらお店のオランジュタルト、ホールであげちゃおうじゃないの」

 その代わり外れたら金曜のシフト残業してもらおうじゃないの。なんて、悪巧みをした私は――翌週、まんまと理緒ちゃんにオランジュタルトを奪われる事態に陥るのだった。
 
 
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