大人の恋はナチュラルがいい。
「店長さん。もし良かったら今度いっしょに食事に行きませんか?」
「なぬ?」
突然色気のある話を振られると、つい咄嗟に色気の無い返事をかえしてしまうこのクセ、治したい。またしてもサムライみたいな返しが口を突いてしまったけれど、彼はわりと肝が据わっているのかさして驚く事も無く、はにかんだ笑顔のまま会話を進めた。
「突然ですみません。でも俺、もっと店長さんと仲良くなりたいなってずっと思ってて。……ご迷惑ですか?」
今現在、店内には私と彼を含め6人の人間がいる。奥のテーブルでお茶をしている女性2人組、カウンターのすみっこでスマホを弄りながら軽食を食べてる中年男性、そしてキッチンの奥から焼け付くような好奇心の眼差しを送ってきている理緒ちゃんだ。
こういった緊張感を要す話をされるには、ややギャラリーが多いのではないかと私は思う。だってほら、理緒ちゃんだけでなくこちらのアレな様子に気付いたらしき女性客も、冷静を装いつつチラチラとこちらを窺い出したのだから。
日頃遠ざかっているせいで、ただでさえ慣れない色気ある緊張感をギャラリーの視線が後押しする。回答に詰まってあからさまにうろたえている私を、彼はカウンター越しに座った席から視線を上げてまっすぐ見つめていた。その眼差しからは決して軟派なチャラさは感じられず、真剣にこちらの答えを待ってる事が窺える。
なにか答えなくては、そんな焦燥ばかりが頭を襲い冷静に判断が出来ない。落ち着いて、落ち着け私。こちらが何か答えなくては彼はきっと微動だにしない、するとどうだろう、せっかく美味しく淹れられたエスプレッソがどんどん冷めてしまうではないか。それは悲しい。なので、私はエスプレッソが冷める前に何かを答える義務がある。
「迷惑……ではないのですけど、あの、どうして私なんかと?」
おそるおそる尋ねてみれば、彼は射抜くように真剣に見つめていた眼差しをふっと少しだけゆるめて答える。