恋人
タイトル未編集
桜坂
美しく咲き乱れる桜に包まれながら、息も切れ切れに坂を登りきる。
通称、桜坂と呼ばれるこの坂の上には公立の高校がある。
私の通う高校。
桜坂はここらへんではちょっとした名所になっている。
丘にあるこの高校には長く少し急な坂を毎日登らなければたどり着かない。その先に門がある。坂のはじまりからおわりまでを彩るこの桜の木は、外から見る分には息をのむように美しい。
しかしそれを実際毎日登る生徒にとっては地獄といっても過言ではないくらい辛い。遅刻しそうでも走るには限度があるし、たとえ時間に余裕があっても、朝から体力を奪われるのには堪えるのだ。
いくら高校生、いくら若いと言えど辛いものは辛い。
運動部ではこの坂をウォーミングアップや体力づくりに活用している。
坂ダッシュと言われるこの活動は、運動部にとって桜坂を嫌う理由のひとつにもなってしまっている。
「はーーー、やっと登ったよ」
4月にこの高校に入学してから、もう2週間が経とうとしていた。
今となりで私より息が切れている彼女、西野このみ は、入学式で席が隣同士になったことがきっかけで友だちになった。
登校を共にしているわけではないが、かなりの確率で桜坂のはじまりで会うのだ。今朝もそうだった。