恋人



なんでこんなことになったんだろう。
私は今、体育館入り口前にいる。
君嶋くんはここにいるとこのみに連れられてきたのだ。

何かを思いついたように言葉を発した渡瀬はなぜか私に目を付け、ニヤリとしながら言伝を頼んできた。
嫌だと言いたかったが、このみが余計なことを言ったためそれは断念せざるを得なかった。

「もー、なんであんなこと言うかな」

「だーって、あの君嶋くんとお近づきになれるチャンスだよ⁉︎逃すわけにはいかないじゃん!」

「だからって、私がバド部に入部したがってたからちょうどいい、なんてそんな嘘つかなくてもいいじゃない。おかげさまで先生には待ってるぞなんて言われるし」

「ごめんごめん〜!でもさー、もったいないよ愛栄が帰宅部なんて。身体測定のとき運動神経の良さが出てたもん」

まったく悪びれてる様子のない謝罪に呆れながらも、そのあとの言葉にどきりとする。

「それより、ここで待ってていいの?一緒にいてくれるのは有難いけど、このみも部活あるんだよね?中に入らなくて...」

私が言い終わる前にこのみが話出した。

「あー、いいのいいの。今日って部活休みだから。それに私は愛栄のためにここにいるんじゃなくて、自分のためにいるの!君嶋くんと話すためにね!」

清々しいほど爽やかな笑顔を向けられ、しかしその言葉はなんだかひどいようにも思えたが、私は改めて彼女を好ましく思った。

西野このみは裏表のない性格だ。自分の欲望を隠さないかわりに、変なこざいくもしようとはしない。
私は彼女のそんな性格を微笑ましく思う。
ただ、その欲望のためなら周りを巻き込むことも辞さないところと、ミーハーであるところを除けば、だ。

「君嶋くんってサッカー部とかバスケ部にいそうなのに、実はバド部ってところがいいよね。チャラくなくて」

ただ、そんなところも含めて西野このみであり、そしてそれを私も微笑ましくは思えないながらも楽しくは思っているのだから大概だ。

「このみこの前は、バスケ部って必ずイケメンいてくれるから最高!とか言って興奮してなかったっけ?たしか、高瀬…くんだっけ?」

「違うよう愛栄ー。高瀬じゃなくて、七瀬!七瀬優希くん。まーあれよね、結局はイケメンなら何でもいいんだよね私」

それ、普通自分で言うかな。
女子の可愛い女子に対する悪口としてなら聞いたことあるけど。
まあ、このみは可愛い女子の部類に入る顔をしているから言われていてもおかしくはないが。

「そっか、七瀬くんか。ユウキってもしかして優しいに希望って字を書く?」

「そうそう!愛栄知ってたんだ。イケメンに興味ありませんって感じだったから意外」

「いや、別に興味なくはないよ。このみが熱すぎるだけだよ。それに七瀬くんはイケメンだから知ってた訳じゃないよ。彼の生徒手帳を拾ってあげたことがあるから覚えてただけ」

実際は間違えて覚えてたいたが。
ただ全体的に女の子っぽい綺麗な名前だなと記憶していたのは覚えていた。


「へー、それ覚えてくれてたんだー」

突然このみの声ではない声が、頭上から聞こえてきた。
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