恋人

篤side

香田愛栄、彼女を初めて知ったのは中総体でだった。
中学3年生にとって最後の大会。最後の部活動。
かける思いが人それぞれ違うだろうが、きっと誰もが重い。

「篤!おめでとう!!」

試合相手のネット際にシャトルが落ちたのを最後に試合は終わった。

相手の選手と簡単な握手を交わし、コートに一礼をしてから振り返るとマネージャーである佐田夏恋が満面の笑みでタオルを差し出していた。

「ありがとう」

タオルを受け取り、代わりにラケットを渡す。

「これお願い」

「ん?みんなのとこ戻らないの?」

「うん、ちょっと走ってくる」

「は、え?今試合終わったばっかだよ⁉︎休んだ方がいいよ!」

「うん、でも走りたい気分なんだ」

「ん〜、仕方ないなぁ。じゃあケガしないように気をつけてね」

「ありがとう。行ってくる」

足早にその場から立ち去る。
試合会場から出てホールを抜けると、外は憎たらしいくらいの快晴だった。
運動するものとして、しかも風が入らないようにすべての窓を閉め切っている中で闘うものとしては、もう少し曇ってほしいところだ。

ランニングするには暑いかな。
飲み物を取ってこようと体育館へ引き返すと、ホールで泣いている女子を見つけた。

周りに人はちらほらいるがみんな遠巻きに見ているだけで、彼女の知人らしき人は見当たらなかった。

試合に負けたのだろうか。
そんなことを思いながら篤は荷物のある2階観客席へ行こうと階段を登ろうとした。

「うわ、あいつ泣いてるよ」

「まじだ。めんどくさ」

「こんなところで泣くとか慰めてほしいのかな〜〜?」

すれ違いざまに3人の女子がはっきり悪意とわかる声を出したのをきいてしまった。
内容からするにあの彼女のことしかありえない。

彼女を振り返ると、さっきの声が聞こえていたようだ。
ビクッと肩を揺らしていた。

「こ、う、だ、ちゃん!どうしたのぉ〜?」

3人組女子のうちの1人が彼女にわざとらしく話しかけた。
コウダと呼ばれた彼女はそちらを見ず、固まっている。

「あれ?あたし無視されちゃってる??」

「男としか話したくないんじゃない?」

「え〜、ひどいなぁ〜〜。泣いているから心配してるのになぁ」

勝手に繰り広げられている会話にコウダさんはなにも言わない。
というより、何も言えないと行った感じだ。
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