いたずらヒーロー。
 算数の授業が始まって、問題文すらわからなくてそわそわとしていると、隣の成瀬くんが耳打ちしてきた。


「一緒に見る?」


 わたしがこくこくと何度も頷くと、成瀬くんは優しく微笑みながら机をくっつけてきた。


「早く言ってくれればよかったのに。」

「ごめんね、ありがとう……。」


 わたしは正直悪いと思いつつも、心の中でガッツポーズをした。


 だけど結局隣の成瀬くんとの近い距離が気になって、今日の算数の授業は、全然頭に入ってこなかった。


「これで、3時間目の授業を終わります。」


 学級委員長の成瀬くんの言葉を合図に、みんなが席を立ち上がる。


 同じように教科書を纏めて席を立った彼を、わたしは慌てて引き止めた。


「成瀬くん。……あ、その、いつもの、お礼……。」


 成瀬くんは、すこしポカンとした顔を浮かべた後、すぐにいつもの太陽みたいな笑顔に切り替わった。


「……ありがとう、立花さん。」




 不思議なことに、この授業が終わると、算数の教科書が返ってきていた。


 ……もしかしたら、神様のいたずらだったのかもしれない。
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