夏の町
嫌な音を立てる心臓に手を当て、なんとか落ち着かせようとする。
きっと乗る電車を間違えたのだ。
小さな子どもだった頃、親から少し離れてその姿が見えなくなっただけで世界が終わったような恐怖体験をした。
もう2度と戻れないのではないかと、怖くて泣き喚いた記憶がある。
今思うと馬鹿らしいというか微笑ましいというか、なんてことのない体験だ。
ドクドクと脈打つ心臓にそう答える。
2度と戻れないなんて、そんなことがあるわけがない。大丈夫。