雨降りの日の彼女
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濃い紺色の傘を差しながら、携帯電話の向こうにいる彼女に話しかける。


「よくわかったね、雨降るって。」


『髪がいつも以上にまとまらなかったの。
きっと湿度が高いんだよ。』


電話越しの彼女の声は、『天パは大変なんだから』と笑った。
駅まであと少し。そこの角を曲がってすぐ。
彼女は先に着いているらしい。


「由宇、どこら辺にいる?」


『駅前の、この前コーヒー飲んだお店。
その前にいるよ。』


「あそこね…見えた見えた………て」


俺は店の方を見、その前にいる彼女を見つけ、立ち尽くした。
にこりと笑ってこちらに手を振る彼女は、右手の傘を開かず立っていた。

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