雨降りの日の彼女
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「うん、大丈夫。もう大丈夫。
ヒステリック気味になってごめんね。
もう、帰れるから。」


「そう。じゃあいこう。」


いきおいよく立ち上がって言う彼女を見て、笑みをうかべてみせる。
元気になったことにホッとしたのは事実なので、別に作り笑いではない。
だが、彼女の赤い目元が痛々しかった。


「茜がいてくれてよかったよ。」


「そう?」


「うん。茜がいなかったら多分、一週間ぐらい引きこもったと思う。」


「じゃあ明日学校行けそう?」


「明日は休むよ。目赤いの見られたくないし、理由聞かれたくないから。」


「そう。」


「……ありがと、心配してくれて。
茜があたしみたいに死にそうなくらい落ち込んだら、今度はあたしが慰めてあげるね。」


「そりゃどうも。」


そんなふうに、彼女は照れ隠しなのか、改札を通るまで話し続けた。
俺は本当に、簡単にしか答えられなかった。


「じゃあ、俺3番線だから。」


「うん。………本当にありがとう。」


「いいって。じゃあね。」


俺は背中を向け、3番線に向かう。
彼女は1番線へ。
少したって歩みを止めて振り返る。
もちろんそこに、振り返る彼女なんていなくて。


「…嘘つき。」


公共の場だというのに、なんだか泣きたくなった。


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