雨降りの日の彼女
.




家に帰ると兄貴が出かけるところだった。


「おかえり。」


「ただいま。」


「…なんかあった?」


決まり文句の挨拶をかわして、靴をぬいで家にあがろうとした時、不意に尋ねられた。


「…なんで?」


「元気なさそうだから。」


「…」


こういう時に勘のいい人間は困る。
なんで抜けてる両親から鋭い兄貴が生まれたのかが未だにわからない。
…ああでも少しふざけた感じなのは母さん似だよな。
そんな兄貴を振り切れないのは、気づいてくれたことで何度も助けられた覚えがあるからで。


「…なんかあったけど、まだ一人でなんとかなるから。」


「そう。じゃあ出かけるから。
母さん達はお隣さんと食事に行ったから、夕飯はなんとかしろよ。」


「わかった。」


返事をすると、兄貴は何やら満足そうに微笑んで、扉の向こうに消えていった。

.
< 116 / 125 >

この作品をシェア

pagetop