雨降りの日の彼女
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天気予報が当たるのは、素直に嬉しい。
携帯の予報どおり、六限の始まりと同じくらいに雨が降りだした。


「茜、僕ちょっとそこの本屋行ってくる。先帰ってていいよ。」


駅に着くと、浩介が傘を閉じながら言った。


「んー…でも明日傘返すの面倒くさいから中で待ってるよ。」


俺も傘を閉じながら言う。
ちなみに、もちろんこれは浩介の傘である。


「返すって…僕ら降りる駅違うじゃん。そっから濡れるよ。」


「自転車に傘あるから大丈夫。」


「なら持ってこいよ。」


「まあまあ。とにかく待ってるから。」


俺はまだ何か言いたそうな浩介を放って駅の階段を上り始めた。
できるだけ誰かと一緒にいたかった。
一人でいると、どうしても頭の中がいっぱいになってしまう。
流石にこんな公共の場でノートにガリガリ書き込むわけにはいかない。


「あかね。」


階段を上りきって改札に定期を通そうとした時、後ろで名前を呼ばれた。
圧倒的に女子に多い名前だから、ボディタッチがないかぎり基本は振り返らない。
でも、この声は知っている。


「久しぶり。」


首だけで振り返ろうとしたら、すでに彼女は横にいて、「あ」っと思った時にはすでに定期券は改札に吸い込まれていて、一回ホームに入って出なければいけなかった。


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