雨降りの日の彼女
.




しばらく彼女を見ていると、状況を理解し始めた彼女の顔は、徐々に赤くなった。
リンゴみたいと思いながらそれを見ていると、


「ばかっ!」


罵声と共に、とても高い音をたてて頬を叩かれた。


「なんでこの状況でからかうの?なんで俺にすればなんて言うの?なんでキス…!」


叩かれた頬を手でおさえて彼女を見ていると、彼女の目に涙がたまり始めた。
そして、唇を拭いながら、こちらを睨み付けた。


「あたしは真剣なのに…茜なんて大嫌い!」


そう言って、俺の手の上からもう一発叩いて駅から出ていった。


「……あっち行ったら帰れないだろ。」


走っていく先は雨が降ってて。
彼女の後ろ姿を眺めながら、呟いた。
多分、あと二分で彼女が乗るはずだった電車が発車することにも気づいてないんだろうな。


「あー…いてー……」


頬をおさえたまま、その場に座り込む。
回りの視線が痛い。
彼女といると、いつもこうだなと思う。
頬と手の甲が痛い。ヒリヒリする。
でも、さっき彼女は目を反らさなかった。


あの時だけ、確かに彼女の視界は俺のものだった。


フラれたのに、嬉しくて笑った。


「ねぇ、由宇。」


いない相手の名前を呼んでみる。


「俺も、真剣だったよ。」


とりあえず、これでいい。

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