雨降りの日の彼女
.



「北沢?」


不意に前方から呼ばれ、そちらに顔を向ける。
その先には、不思議そうな顔で俺を見る友達、田村(タムラ)。


「よう。」


俺はかなり短い挨拶を返した。


「お前、こんなとこで何してんの?」


体育会系のガッシリした体格の彼は、こちらに寄ってきながら尋ねてきた。
ここは駅のエントランスに続く階段。
そうか、やはりここに座って話してるのは不自然なのか。


「まあいろいろあってさ。」


と、説明しだすと長くなりそうだったので、適当に答えておいた。
目の前までやってきた田村は「ふーん」と言い、


「じゃあさ、それ、何?」


と、次の質問をしてきた。


「それ?」


俺は復唱し、彼の視線の先を見ると、


「………由宇?」


俺の後ろに隠れていた由宇が視界の隅に入った。

.
< 44 / 125 >

この作品をシェア

pagetop