雨降りの日の彼女
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「書いてない。」


きっぱり言うと、彼は「えー」とか「なんでだよ」とか文句を言う。


「俺に文才は備わってないの。」


そう言って、俺は携帯を開く。
勢いよく開いたので、バチンと音が鳴った。


「別にそんな期待してないからさ、書くだけ書けって。」


「期待してないなら書けとか言うなよ。」


矛盾したことを言う浩介に、俺は苦笑いで返した。


「それより電車、あと二分で出るんじゃね?」


「うわ、じゃあ行くわ。」


「おー」


勢いよく階段をかけ上がる浩介を見送り、ため息を吐いて空を見上げる。
相変わらずの雨模様で、鈍色がずっしりとした圧迫感を与えた。

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