雨降りの日の彼女
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「すぐ終わるから。はい、頭動かすなよー。」


もう痛い思いをしたくなかったので、俺は彼女の言葉に素直に従った。
多分、いや、絶対に髪を結ばれてる。
前髪を軽く引っ張る感じがするので、額が丸見え状態だろう。
駅に向かう人間の視線が気になるが、多分彼女は気づいていない。


「はい、できた。」


嬉しそうな声でそう言い、彼女はさっきの位置に座った。
頭に手を持っていくと、結んだ部分がぴょんと跳ねてはいないようだ。
上手いなあと思っていると、彼女は鏡を取り出し、それを俺に渡してきた。
「ありがと」と言って受け取り、鏡の中の俺を見ると、


「………。」


自分の姿を見て、固まった。


「似合うね、茜。」


隣で嬉しそうな彼女。
似合うと言われても嬉しくない。
結ぶために使われたのは、質素なゴムではなく、色鮮やかなシュシュと言われるものだった。

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