雨降りの日の彼女
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「この前?」


何の話かわからず、眉を歪めながら首を傾げてみせると、「駅で会った時のだよ」と言われ、「ああ」と相槌。
そういえばそんなこともあったっけ。


「北沢の後ろに隠れてたのって、お嬢様学校のだろ?」


「うん」


「あれから気になってさ。」


「ふーん」


俺は話を聞きながらパンに食らいつく。
くっきり歯形が残った。


「よかったらさ、紹介し」


「むぁむぁ」


「…」


「むぁむむぁまむぁ」


「食い終わってから喋れよ。」


田村は俺を片手で制しながら、頭を抱えてそう言った。
そうか、俺のこの言葉が訳せるのは家族と浩介だけか。
俺は口を動かし、呑み込んでからまた口を開いた。

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