赤いエスプレッソをのせて
「ぃよっと」

手首の返しで綺麗に目玉焼きを浮かせてひっくり返す。

目玉焼きに関しては、『両面しっかり焼く派』なのだ。

山久の好みは知らないけど、コイツは居候のみだ、メシを作ってもらえるだけありがたく思ってもらいたい。

まったく、男が起きる前に起きてるなんて、まるであれよ、さだまさしの『亭主関白』。

メシは上手く作れだの、いつも綺麗でいろだの、結構いろいろ言ってくれちゃってたあの歌、そのまんまのようなもんね。

「ぅぅ――、んんぅ……」

普段絶対耳にすることのない低い唸り声を聞いて、思わず心臓が喉元まで跳ね上がってしまった。

恐る恐る振り返ると、うつ伏せだった山久が仰向けになっている。

「――ったく」

ちょうど卵も焼き上がったところだったから、火を消し、私はソファーの横へ歩いた。

私の頭が彼の肩辺りでしかないほど長身である山久が寝転がるには、ちょっと小さかったかもしれない。

実際、膝から先が落ちてしまっていた。

それに、いつのまにかタオルケットを蹴りやっている。

寝相よくないな、コイツ。
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