赤いエスプレッソをのせて




鏡が、嫌い。

ほんとは、嫌い。

それはニセモノを、それはほんものを、映す。

鏡。

映されたくないのに、映したくないのに、映す。

私の見たいもの、私の見たくないもの、映す。

鏡は意地悪だ。

やめてとお願いしても、やれと命令しても、映す。

ありのままか、偽りのものか。

鏡。

それは私の心の中に、人の心の中に、誰の心の中にも、ある。

鏡。

それは扉の名前。

人が自分を見るための、扉の名前。

その向こうにはなにがあるのか。

私は知りたくない。

知るのは怖いことだ。

無知は罪じゃない。

鏡は、その無知を摘み取る。

どこかで、なにかで。

だから私は、鏡が嫌い。

私は自分をさらけ出して見るのが、怖いから。
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