赤いエスプレッソをのせて
彼は言った。

「それから、僕は地元を離れた。家族が殺された土地にずっといるのもつらかったし、おじいさん達との思い出も多すぎて……離れるしかなかったんだ」

洗い物が終わったのか、蛇口を捻る、キュッ、という音がした。

濡れた手をタオルで吹いて、彼がこっちへ歩いてくる。

真っ正面から見つめて迎えるのが恥ずかしかったから、くるりと寝返りを打って、彼へ背を向けた。

毛布の端をめくって、ショーがベッドに入ってくる。

なんだろう、抱き締められたわけでもないのに、すぐ近くに彼がいるっていうだけで、私はなにかを期待してしまっている。

なにかが心の底からジワジワとにじみ出て、彼を求めている。

――ぬくもりや、言葉を……。

と、なんの前触れもなく、彼がテレビをつけた。

「――ああ」

そしてこぼれた、溜め息でも嘆息でもない、どこか淡白としすぎているそれに、私は顔を向ける。
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