赤いエスプレッソをのせて
「なに? なにかあった?」

訊ねたけど、上半身を起こしたままの彼は、なにも答えてくれない。

仕方なくテレビへ目を向けると、見慣れた町並みが四角い画面の中、映されていた。

近所でまた、通り魔の事件があったらしい。

『被害者四人目、二十代女性刺殺される』とか、黄色いテロップが出ている。

青いビニールシートが被されている『なにか』や、黄色いテープで囲まれた中を忙しく動いている警察やらが、ここから数百メートルしか離れてない道を埋め尽くしていた。

「早く、捕まえてくれないか」

彼が呟いたのを聞いて目を向けると、

「コイツが野放しになってる限り、僕は安心できない……いつ美代さんを失うか、わからないんだからね」

「ちょっと、バカ言わないで」

彼の想像上の悲嘆に、眉を少し吊り上げた。

まったく縁起の悪いことを言ってくれる。
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