赤いエスプレッソをのせて
「大丈夫に決まってるでしょ。私にはショーがいるんだから。アンタ、守ってくれるんだから」

そうだね、と彼。

「そうよそうよ。そういえばアンタ、前に怪しい男見たって言ってたじゃない? 警察行って、その男がどんなヤツだったか証言して来なさいよ。そしたら犯人だってサッサと――」

「ごめんね美代さん」

「――捕まって事件解け……なにが?」

突然謝られて、わけがわかなかった。

なにをコイツは、いきなり謝るのよ。なにかやったの? もしかして、洗い物の最中に皿を割ったとか?

私の懸念をよそに、彼は言う。

「実はあの時、僕は犯人なんか見てないんだ」

「え?」

「あの時ほんとは、犯人なんか見てない。ただ帰りたくなくて、ひとりでいたくなかったから、アナタのそばにいたかったから、嘘をついたんだ」

協会で懺悔するかのように、ショーの声は小さかった。

ショーが、私に嘘をついていた。

まだ彼がうざかっただけの時に。

(でも――それをこの私が責めるわけ……?)

うそなら、私だってもうついている。

世界で一番タチの悪い、超弩級のうそだ。
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