赤いエスプレッソをのせて
入学式以来くぐっていなかった校門を抜け、キャンパスへ入る。

結構人がごった返しているけど、知ってる人なんてひとりもいなかった。

これが大学生活初頭の出来事なら、見知らない人同士でいろんな話ができるんだろう。

どこの高校からきたの? とか。

でももうすぐ夏期休講の時期なんだ。

これくらいになると大抵それぞれがそれぞれのグループを持っていて、新参ものなんかに興味は向かない。

久しぶりにきた大学で、久しぶりの孤独感を味わうことになるとは、ちょっと思ってもみなかった。

自販機でいつも通り、オレンジジュースを買う。

千代のことはどうでもいいはずなのに、こればっかりは――もしかすると私は特別好きな飲み物がないのかもしれないけど――どうしてか無意識のうちに実行してしまう。

頭の隅で、彼女を考えてる証拠とでもいうんだろうか。

千代を完璧に見捨てきれないとでもいうのかしら。

だとしたら、ふふっ、私もとんだお姉ちゃんだわね。
< 139 / 183 >

この作品をシェア

pagetop