赤いエスプレッソをのせて




彼女はなんでも持っている。

私が持ってるもの、持ってないもの、なんでも、持ってる。

持ってなかったら、与えられる。

母さんから、父さんから、なにもかも。

私がほしいのに、私もほしいのに、千代ばっかりが。

不公平よ。ずるいわよ。卑怯よ。アンタなんか、いなくなっちゃえばいいのに。

嫉妬して、憎たらしくて、言った。

「千代、死ぬってどんなことかわかる?」

「ううん、わかんない」

後ろ手に握った包丁を、強く握り込んだ。


「お姉ちゃんが、教えてあげよっか?」

「美代ネエが?」

「うん、教えてあげるよ。ね?」

「うんっ」

だから、私は――……。

「……――もうっやめてよぉ!!」

と、叫んでしまった時には、もう立ち上がっていた。

抗議の真っ最中、奇異の目でみんなが見つめてくる。

やばい。二ヶ月も行ってなかったから授業の内容がサッパリわからず、眠り込んでしまっていたのだ。

考えてみれば、昨日もまた、ショーのお説教のせいで寝たのは遅い時間だった。
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