赤いエスプレッソをのせて
『――……どうかしたの……?』

ようやくのように電話に出てくれた彼の声は、枯れ葉が擦れあったみたいに長く薄く引き伸ばされて聞こえた。

やっぱり調子が回復しているわけがない。

「ショー!」

と、彼を呼んだ私の声も、雨に打たれてか細くかすれてしまっていた。

情けない声でも、とにかく、精一杯言った。

「今すぐに来て! お願い、来てよ! 大学の帰り道なんだけど、今すぐに!」

数秒、彼はなにかを考え込んだのか、間が開いた。

一拍あってののちに、訊ねてくる。

『今、どの辺にいるのかな?』

という言葉を聞いた時は、心のどこかで花火が打ち上げられた気分だった。

それが、ドーンと花開くように、今いる場所の具体的な位置と、どんな道でこれから帰るかを伝え、ケータイを閉じた。
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