赤いエスプレッソをのせて
顔をあげて視界を横切る髪を分け、一歩踏み出した時、気分と一緒に歩調まで回復している自分に気が付いて、なんだかおかしかった。

ショーが駆けつけてくれることに、露骨なほど喜んでる。

いくらなんでも現金な女よね、と嬉しくも自嘲しながら、それでも、すぐそばに彼がいないという不安や焦りから、自然と足は速まっていく。

彼に伝えたままの角を、ひとつ折れる。曲がり角の向こうに、彼の姿はない。

……きっと、次の曲がり角で見つかる。

ショーのことだ、私が頼んだんだから、必ず応えてくれる。

たとえ私が『代用品』でも、大切な『代用品』なんだから、きっと。

次の角を一秒でも早く折れたくて、さらに足の回しを速くする。

角を曲がる。いない。次。曲がる。いない。

――どうして? どうして焦らすのよ。

お願いだから少しでも早く来てよ……苦しいじゃないの……つらいじゃないの……私を、こんな目に遭わせないで……。

七夕よりも聖夜よりも強くその一瞬祈って、また角を曲がる。

とそこに、いよいよ見つけた。

半透明なビニール傘を差しているから顔は見えないけど、スッと伸びている長身と、赤い頭は絶対見間違えるわけがない。
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