赤いエスプレッソをのせて
「ショー!」

雨音を貫いて叫んだ私は、彼へ泣かば体当たりを食らわせるようにしがみついた。

その瞬間、

(あれ?)

と思ったのと、

腹になにかが侵入してきたのは、

同時だった。

それは、食堂を通ったりせず、皮を突いて、肉を裂いて、一直線に、私へ……。

「ショー……?」

冷たさがジリリと伝わってきて、それから痛みが雷電みたいに頭へ、足へ来る。

気付いたら、彼の足元にしゃがみ込んで、見上げていた。

見知らない、赤い帽子を被った男を。

「だ――、れ……?」

ショーじゃなかった。知らない人。違った。そんな、こんな、ひどい……。

ショーじゃないなんて。

男の手に、赤くてらてらと光る果物ナイフが握られている。

ぁ、うそ……刺された……コイツ……それじゃあ、通り魔……?

ぐらりと体がかしいでいくのが、自分でもわかる。

水溜まりに突っ伏して、顔がびっしゃりと濡れる。冷たい。

全身から力が抜けて……なにを……私は、見て、いるのか……

ああ――そう、ね……寒い、わ……ショー……。
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