赤いエスプレッソをのせて
キャンバスの上で鳴る、走る、シャッ、シャッという音が耳に気持ちよかった。
ここは個室で、その音を堪能できれのは私だけ。なんて贅沢だろう。
私が横になっているベッドの向こう(彼からすれば私を挟んだ反対側)は、完璧なブルースカイ。サマーバケーションのテロップがそこかしこに飛び交いそうなほどだ。
私は上半身を起こしているから、彼は今きっと、青空をバックにした構図で描いているんだろう。
始めの三十分ほどでスケッチブックに描いたのは、なんでも下書き段階のもので、全体像を掴むために何枚か少々雑に描く『クロッキー』というものらしい。
そしてだいたい『私』というものを掴めた彼は、一時間くらい前からキャンバスに『私』を描いているんだ。
「まだー?」
と訊ねながら、ついついキャンバスを覗こうと体を傾けると、
「こぉらっ」
小さな声で怒られてしまった。
眉間にしわが一瞬よったのを見逃さずに、慌ててもとの姿勢に戻った。
ここは個室で、その音を堪能できれのは私だけ。なんて贅沢だろう。
私が横になっているベッドの向こう(彼からすれば私を挟んだ反対側)は、完璧なブルースカイ。サマーバケーションのテロップがそこかしこに飛び交いそうなほどだ。
私は上半身を起こしているから、彼は今きっと、青空をバックにした構図で描いているんだろう。
始めの三十分ほどでスケッチブックに描いたのは、なんでも下書き段階のもので、全体像を掴むために何枚か少々雑に描く『クロッキー』というものらしい。
そしてだいたい『私』というものを掴めた彼は、一時間くらい前からキャンバスに『私』を描いているんだ。
「まだー?」
と訊ねながら、ついついキャンバスを覗こうと体を傾けると、
「こぉらっ」
小さな声で怒られてしまった。
眉間にしわが一瞬よったのを見逃さずに、慌ててもとの姿勢に戻った。