赤いエスプレッソをのせて
腹を何針も縫った傷だから、あまり体はよじれない。

まるでペンギンみたいに腕を伸ばして、スケッチブックを受け取った。

そしてそこに描かれる、黒一色ながら奥深い、きめ細かな濃淡の世界に、お世辞でも自惚れなんでもなく、嘆息を漏らし、幸せを飲み込んだ。

縮尺された、間違いなく私がそこにいる。

なにが『雑に描く下書き』なもんだろう――こんなにリアリティに溢れた黒いラインが織り成す世界のどこが、『雑』なのだろう。

私の絵が、笑ってる。ショーへ向けて。

……なんだか……

自分よりも、美人に見えた。まるで仲代先生級……いいや、あの人よりももっと、綺麗に見えた。

私なのに、こんなに。

「ゃ、やだ……ちょっとうそ、なんか私じゃないみたい」

イヤでもなんでもないのに、恥ずかしさから出てしまう言葉だった。

ああ素直じゃないな、私。

顔が火照るのを感じて頬を抑えても、素直な気持ちを抑えたらダメなのに。
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