赤いエスプレッソをのせて
「――で?」

「はい? ……なにがですか?」

「それで? どうして、私にそのお姉さんってのが似てると、死にたくなるわけですか?」

「ああ……それはですね」

彼は表情を一転させ、曇り空のように灰色にした。

見ていると思うけど、ほんと、ころころ顔の変わる人だ。ああ、なるほど、だから『変人』ってわけね。

「僕は、思うんですよ。生きていちゃいけないってね」

「……は?」

「いえ、ですから。僕は、本当なら十年前に死んでおくべきだったと、そう思うんです」

彼の面は、一気に神妙なものに染まっていく。

「十年前に僕は、姉さん、父と母……家族をみんな見捨てて、ひとり逃げ延びました。僕ひとり生きて、そして、家族は死んだ。

だから時々、どうしても僕は、生きていていいのか考えてしまうんです。僕も姉さん達のところに行くべきじゃないんだろうか、そう思うわけです」
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