赤いエスプレッソをのせて
「いつ入り込んだのよ」

夏にさ迷い込んでくるコガネムシのように扱いながら、二つ折りにされているカードを開くと、なにやら数字が並んだ紙がはらり、落ちた。

落ちたほうはとりあえず保留として、カードに目を戻すと、

(あっ! ――あの変人……いつの間に)

冒頭から『山久尚司』ですという言葉があった。そりゃもう、堂々と。

本当に、いったいいつこんなものを私のバッグに忍ばせたんだ、あの変人。

どっちが『そういう仕事』の人間だか、わかりゃしない。

(ほんと、映画の見すぎね……こんなん、ロマンチックでもなんでもないっつの)

溜め息も尽きた私は、目だけで文字を追う。




『山久尚司です。

勝手に手紙を入れたこと、すみません。

またお話をしたいので、もう一度どこかでお会いしましょう。

ケータイの番号を記しますので、連絡お待ちしてます。

また会える日を、楽しみにしていますよ。』
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