赤いエスプレッソをのせて
付属されていたさっきの紙に、文面通り、ケータイの番号が記してあった。

コイツは、まったく、もう……なんてナルシストなの!

「はぁあっ」

尽きたはずの溜め息を、胃袋をねじって吐きつける。

手にしたカードが、かすかに揺れる。

なんか、だんだん腹立ってきた。

ずばり、独り言を叫ぶ。

「知るか、アンタなんかっ!」

それからむしゃくしゃとパンにがっつき、シャワーを浴びて、寝た。

もちろん、変人・山久に電話なんかしちゃいない。

なんでって。当然でしょ。

どうして私があんな自殺だか他殺だかを志願するヤツに、そこまで親切にしなきゃなんないのよ。

知ったこっちゃないわ。

春先は冷えていくはずの夜が、その日はどうしてか、明け方近くまでむしむしとした暑さに包まれていた気がしたのは、私の錯覚だろうか。

それにしても。

むしゃくしゃする。
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