赤いエスプレッソをのせて




時々、私は考える。

空がなかったら。

地面がなかったら。

人がいなかったら。

動物がいなかったら。

空気がなかったら。

地球が、なかったら。

世界は、どれだけ静かだろう。

世界は、どれだけ儚い存在だろう。

それを時々、考える。

考えては、怖くなってやめる。

今の私の存在。

妹の存在。

真っ白な紙の上に、ぽつんと落とした墨汁の一滴。

初め綺麗な円だったそれが、だんだん滲んでいく。

輪郭が、なくなる。

私と、妹。

美代、千代。

境目は、どこ。

肩の上。

私自身。

世界が、儚い。

白くて、怖くて、なにかが失せていく。

私が?

妹が?

そんなこと、時々考える。

考えて、ふと、やめる。

考えるのが、怖い。

考えたら、なにかが消える。

なにかが失せる。

なにかが壊れる。

なにかが私から、抜け落ちる。

そして、余計なものが、増える。

そんな気がする。

だから、考えない。

考えたくない。

真っ白い。

紙の上に。

私と妹。

境界は、短く、薄い、肩との距離。
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