赤いエスプレッソをのせて
何気なく見ている夕日は、普段からそういう色合いだ、とわかりきった感覚で見れば、なんの感慨も湧かない。

あったとしてもそれは、空と言うものを主観にしたわけじゃなく、周りの惹き立て役によるシチュエーションの違いだ。

空そのものじゃない。

「で」

と、

「? ――なにがですか?」

「で、それが、どうかしたの?」

いつのまにか私は山久のほうを向いていた。いや。気のせいか、向かせられていた。

すると彼は、昨日とは違い、全然にこりともせずに、こうのたまった。

「そうですね――では一度、アナタを描いてみたいですね」

「は……?」

「いつか、〝アナタ色〟に染まった空を描いてみたい。ぜひ一度、どこかで」


私は、ヘンに熱烈な眼差しを送ってくる彼から、顔を背けた。

なに言ってんのよ、コイツ。だれがアンタなんかに、私を描かせてやるもんですか。

「――それ、一生叶わないわよ」

冷たく言いつけてやると、彼が何度か首を振ったような気配が、あった。

それがなんのつもりで、どんな意味があったのか、まったく知ったこっちゃなかった。
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