赤いエスプレッソをのせて
(アイツぅ、なに考えてんのかしらね? ……ねぇ、千代)

不思議だったのは、今度のデートの最中は一度も、殺してくれって言ってこなかったこと。

こないだ散々、ちょっとした弾みにも、殺してくれるんですかを連発していた山久らしくないといえば、らしくなかった。

まったくなにを考えてるんだろう。

余計なうざったさを感じなくてすむのは助かるけど……肉をほしがらない狼を目の当たりにしたようで、なんだかちょっと気味が悪い。

(――明日は、どうするかなぁ……。仲代先生の診察も、バイトもないし……)

「どうしようか、千代」

とは言いつつも、気味の悪い……じゃないな、苦手な……とも違う、妙な……でもないし、ヘン――そう、私にとってヘンな存在でしかないはずの山久とのデートの予定を考えている、私がいる。

ああ、私も充分、気味が悪いかもしれない。
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