赤いエスプレッソをのせて




眠れない夜っていうのは、誰しもあるだろう。

昼寝をしすぎたとかコーヒーの飲み過ぎとかいうバカっぽいのもあれば、恋人のことを想って胸を焦がす人だっている。

人それぞれに相応の理由があるもんだけど、私の場合はどうだろう。

他人から、そういうことあるよねー、と同意を得られそうなことじゃないのだけは、たしかだ。

私が朝起きれない原因は、就寝が遅いからというだけじゃない。

大本の原因は、千代だ。

彼女が、語りかけてくるんだ。

毎夜、毎夜、まぶたの裏の闇に浮かんで。

血まみれじゃないけど、真っ青な顔で。

いつもは肩にある彼女が、私の正面に――どれだけ寝返りを打っても、正面に浮かぶ。

なんなのよ、と思う。

私をさんざん振り回してメチャクチャにしてくれてんのに、夜になってもまだなにかあるの? そんなに私を困らせたいわけ?
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