赤いエスプレッソをのせて
……私の父さんは、母さんと違って千代にばっかり肩入れすることはなかった。

私個人を見てくれた数少ない親しい人だろう。

だけど父さんは、私にあんまり期待し過ぎていた。

言わば、度を越えた親バカである彼が、よく言っていた。

頭よくなってくれ、美人になってくれ、気立てよくなってくれ、母さんに負けないくらいいい女になってくれ、誰にでも慕われるようになってくれ――

そんな風に、どうなってくれどうなってくれとしつこかった。

私が千代を殺したことで両親は離婚することになったから、今ではそんな戯言を延々聞くことはないけど、あれはただ幼い私を困らせていただけだと思う。

年端もいかない少女にいろいろ要求してくるだけで、もうほんとに苦しかったのを覚えている。

だから、母さんのほうに私はついていったんだ。

上からギュウギュウ求められるよりも、自分を殺すだけですんだ、母さんのほうに……。
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