赤いエスプレッソをのせて
とまあ、上手い具合に言いくるめられてしまったわけで、救済は得られなかった。

事実、まあデートしてほしいって言ってくれるのは嬉しいし、まともに一人称として扱われりのは、素直に心地よかったりもする。

(――とはいっても、ね……)

十時を過ぎての起床。

いつものように髪をとかし、腹が減ったなら詰め込もうということで、遅い朝食の目玉焼きを作りながら、思う。

(この状況は、なりゆきってもんですまされんのかしら、ねぇ……千代?)

訊ねた肩の妹の、その向こう、ソファーの上で、彼はまだ寝ている。

彼といえのはほかでもない山久で、実は昨日、うちに泊まったのだ。

あっ、前もってぐさりと釘を刺しておくなら、決してナニをアレコレ、ドウしたとか、ソウイウコトとかコウイウコトとかは一切ないわよ。当然でしょ。

これでも我が身の貞操は自分で守り通してきたんだから。たった一夜で、それも突然泊まることになった相手と、そんなことはしない。
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