赤いエスプレッソをのせて

賞味期限が明日までのココアを、裁判で使う木槌みたいに持ちながら訊ねると、彼は苦笑いを浮かべた。

「あまりレディーにはお教えしたくない理由なんですが……？」

「あら、紳士が約束を破るんですか。そうですかそうですか。へぇー？」

仲代先生のやり方を、私はきっちり学んでいた。

彼は、紳士という言葉を出されると弱い。

どうしてだか知らないけど、彼は自分が完璧な紳士でないと気がすまないようなのだ。

案の定、逆鱗にくすぐり攻撃を食らったみたいに少しの間身を震わせた彼は、耐えられなかった。

「あー、実はまあ、怪しい人影を見掛けまして」

それってアンタのこと？　と冗談半分に言うと、違いますよ！　とあからさまに傷ついた風な声が返ってきた。

五つも年上の癖に、私なんかの言うことにいちいち翻弄されるところは、なんとなくかわいいかなと思ってしまった。