夜ー闇に隠された瞳の奥ー
それが始まりでした。
俺が小学校5年生のときです。
夜中、俺は親父を待ち続けました。
そしてようやく、深夜2時になって帰ってきたんです。
「………あ、お父さん。おかえり」
眠くて仕方がありませんでしたが、その時のことは鮮明に覚えています。
キツイ女物の香水の匂い。
首元にあるキスマーク。
緩んだネクタイ。
そして、酒くさ。
「あー、お前か。寝てなかったのか」
虚ろな表情をした親父の瞳に俺が写る。
「………」
俺は言葉を失いました。
「………っ、ご飯、テーブルにあるから。あっためて食べてね。おやすみ!」
頑張って絞り出した言葉がこれです。
俺はそう言うとパタパタと音をたてて部屋に行き、布団にくるまりました。
あんなのは、お父さんじゃない。
明日になれば、戻ってる。
大丈夫、大丈夫、大丈夫……
何度もそう言い聞かせました。