私の仕事と結婚
典弘は車を止めようとせずに、スピードを上げた。

「典弘、止めて。」

「俺の話を聞いてくれないなら、ダメだ。」

怖い顔をして運転する典弘。

「お願い、お願いだ、歩夢。君が居ないと俺は…。とにかく俺の家に向かうから、ゆっくり説明させて。」

もう私は口を開かず、典弘から顔をそむけるように窓から外を見ていた。

やっぱりもっとお互いの事を知ってから結婚を決めるべきだった。

こういう仕事をしているためか、私は相手を知る事を大切に思って来た。

お互いを知ってその上で良い提案をして、施主さんを笑顔にするのが仕事のやりがいだと感じていた。

だから典弘ともちゃんとお互いを知ってから、否、もう充分だと思っていたのに、一番大切な事を隠されていたように思った。

私にとってそれは一番許されない事のように感じた。

すっかり裏切られた気分だ。

典弘の家に車が付いた途端、私は車から降りた。

そして自分の家に帰ろうと、駐車場の入口へと歩き始めた。
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