私の仕事と結婚
確かに大人げなかったと今なら思うけど。

でももう典弘だって、私の頑固さに愛想をつかせているだろう。

今日もしっかり残業をして会社を出た。

「桜井さん。」

どこかで聞いた事がある声だ。

誰だろうと思って声の方を向くと、そこには典弘のお兄さんが立っていた。

「久しぶりだね。ちょっと時間あるかな?」

私は体も表情もこわばらせていた。

「申し訳ありませんが、私にはお話する事はありませんので。」

そう言ってお兄さんの横をすり抜けようとすると、

「仕事のお話をさせてもらいたいんです。打ち合わせした施主さん覚えているでしょう? あの方からあなたを交えて、打ち合わせをしたいと再三のお願いがありましてね。どうも典弘から連絡が付かないという事で、私がこうしてあなたに会いに来たんです。」

そんな事もあったな…。何だかとても昔の事に思える。

「もう私に参加する資格はありませんから。」

私はお兄さんの顔を見つめる。
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