私の仕事と結婚
「何でもお見通しって感じで、すごい人だな。」

その後姿を見ながらつぶやく典弘。

「さすが、うちのトップセールスマンって感じでしょ?」

私が言う。

車に乗り込み、話を始める私達。

「親の事を黙っていたのは、本当に悪かった。結婚が正式に決まったら、ちゃんと話して親に会ってもらうつもりでいた。 逆に言えば歩夢に結婚の承諾をちゃんともらうまで、親に合わせるつもりはなかったんだ。そんなの結婚に関係ないって思っていたから。」

「私は典弘の事をすべて受け入れたかったのよ。」

ポツリと私は言う。

「うちの親は良い親だよ。でもああいう仕事をやっている関係上、俺はそれに影響を受けて育ってきた。たくさんの人と接してきたせいか、人に合わせる可愛くない子供だったんだ。でもある時気が付いたんだ。俺自身って一体どんな人間なんだろうって。その時から自分自身に正直であろうと考えたんだ。そうすると、マイペースだの変わっているだの周りから言われるようになった。きっと正直であることを意識し過ぎて、かえって自分を縛り付けていたんだろうな。でも歩夢の仕事に対する姿勢を感じるようになって、惹かれるようになった。こんなに物事に一生懸命で、自分らしさを出している人が居るなんて、正直驚いた。仕事で妥協せずに、自分にも厳しい。それはちゃんと陰で努力をしているからこそ出来る事なんだ。だから人を受け入れる器も大きい。その時、自分の甘さに気が付いたよ。親のせいにして、自分はただわがままに振る舞っていただけだったんだって。」
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