夏影
「さて、と。じゃあ、帰るか。悪いな遅くなって」


竹本が椅子から立ち上がりながら言う。


千影は腰を上げようとはしなかった。


「いいんです。今日は、早く帰りたくなかったから」


「何で?何かあるの、今日?」



「兄……が、帰ってきてるはずなんで…」


「兄?あぁ、そっか勇人か!お前たち、兄妹になったんだったな!懐かしいな、卒業して5ヶ月か~。あいつ元気かなぁ?」


千影はようやく渋々丸椅子から立ち上がった。


「でも、何で早く帰りたくないんだ?楽しみなんじゃないのか?」


不思議そうに言う竹本だったが、千影は無言のままだった。
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