夏影

兄の帰省

千影は、ことさらゆっくりと家への帰路を歩いていた。


もう夕方も6時を過ぎている。


少しは涼しくなっても良いのに、制服のシャツが肌に張り付いているような感覚だ。


風がほとんど無いからだろうか。


〈竹本先生と保健室にいた時は、少しは風があったのに〉


千影はそう思いながら、ゆっくり歩を進めた。


家に着かなければいい。


そう願っても帰らないわけにはいかないのだ。


曲がり角を曲がると、見慣れた我が家が見えてきた。


千影は軽くため息をつくと、意を決して玄関の扉をそっと開けた。
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