夏影
ガチャリ、とドアノブをひねり、玄関へ入る。


早速、リビングから母と兄の笑い声が聞こえてきた。


〈無事に帰ってきたんだ〉


そう思いながら、足音を殺して階段へ向かおうとした。


「千影?」


ひょこっと母の顔が覗いた。


「何よ、帰ったのね!今日は少し遅かったね。ただいまくらい言ってよ~。勇人、帰ってきてるよ!」



「あ、そっか。今日はお兄ちゃん来る日だったね」


さも、忘れていたかのように千影は母に笑顔を見せた。


「お母さん夕御飯の準備があるから、リビングで勇人と話でもしてなさい」


千影はカバンを階段の下に置くと、諦めたようにリビングへ向かった。
< 12 / 32 >

この作品をシェア

pagetop